自動販売機おじさんの話 | 投財堂のドタバタ妄想録

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兜町という聖地へ
夢を求め 金を求め彷徨う・・・
市場放浪記、改め・・・・・ドタバタ妄想録。

4月14日 伝説のおじさんシリーズ

久しぶりに変なおじさんを見た。
恒例の、変なおじさんシリーズ。

題して・・・
自動販売機おじさんの話。

昨日の事だった。
結構、交通量の多い県道にて

俺の前を、一人のおじさんが歩いていた。
あっ、先に言っておくけど、そのおじさん俺じゃないからね。
そこそこの身なり。
一見して、ホームレスではない。
そのおじさん、ふと立ち止まり道路の反対側をまじまじと見ていた。

え?

もしかして、信号も無いこの場所を渡ろうとしてる?
20メートル位先に押しボタン式の信号があるのだが
そのおじさん、この場所を渡ろうとしていた。
その目は、道路の向こうに釘付け。

ん?
何があるのだろう?

俺も見た。

何もない。

あるのは自動販売機だけ。

ん?

もしかして・・・・あれか?

あの、自動販売機見てるの?

するとおじさん、何とスルスルと道路を渡り始めたではないか。
左右から車、来てます。
年の割に軽快なフットワークで渡るおじさん。

えっ?
えっ?

鳴り響くクラクションをよそに、おじさん見事に渡り切りました。
何故か安堵する俺。
そして拍手。
よくやった。
よくぞ渡り切った。

さあ、おじさん・・・何をする!
そんな危ない思いをして、一体何をしようというんだ。

ごく自然な形で自動販売機に近づくおじさん。

そして、その手をサッとつり銭入れへ伸ばす。
シャカシャカシャカ。

え?

危ない道路横断をして・・・・あれ?
もしかして、つり銭探し?

つり銭がなかったのか、残念そうな顔をして
じっとこちら側を見るおじさん。

そして・・・・・何と、また・・・
無謀な道路横断をする素振り。

待て!

せめて、20メートル先の信号まで行け。

何故だ?
何故、またここを渡ろうとしているのだ。

俺はおじさんの視線を見た。
おじさんの視線は、こちら側5メートル位先にあった。

そこにわずかな窪みがある。
そして、その窪みに・・・そいつはあった。
わずかな窪みに隠れるように自動販売機が・・・

何故そこにある!

また、そこにあるならなぜ先に気づかなかったのだ。
二度手間ではないか。

再び道路を横断し始めるおじさん。

俺の中で何かが弾けた。

今ここで、おじさんの目指している自動販売機のつり銭口に
俺が先に手を伸ばしたらどうなる。

俺の方が近い。

今ならやれる。

俺なら出来る。



しかし、俺は立ち止まったまま動かなかった。
・・・というか、おじさんの行動を終始立ち止まったまま
見守っている俺って、どうなのよ。

とにかく俺は動かなかった。
俺が自動販売機に近づくと、おじさん、慌てるかも知れない。
慌てたおじさんが、車に轢かれちゃったらシャレにならんもんね。

おじさん、ようやくこちら側に着きました。
そして自動販売機へ向かう。

手は再びつり銭口へ・・・

「あるワケねぇ~だろ!」

心の中で毒づく俺。

そして・・・つり銭口へ入れた手をニヤリとしながら戻すおじさん。

え?

え?

え?


「あったのかよ!!」


なぜか拍手をする俺がいた。

(了)

嘘のような本当の自動販売機おじさんの話でした。